塩尻で暮らすママたちの「あったらいいな」に応えたい!

「まぁるい子育てネット」運営メンバー 酒井亜希さん、北村実里さん、小口宮環子さんの耕し方 2017.3.23

昨年9月、「しおじりまぁるい子育てネット」というサイトがオープンした。
これは「子育てしたくなるまち日本一」を掲げている塩尻市が、「子育てネットワークの輪を広げよう」をテーマに運営する子育て支援サイトである――と書くと、どこの自治体にもありがちなサイトに思えてしまうけど、「まぁるい子育てネット」は一味違う。
一番の特徴は、市民と連携していること。地元のママたちが企画段階か関わっているこのサイトには、塩尻市が発信する「子どもの健康情報」「相談&教室情報」といった公共の情報とともに、地元ママによる口コミ情報を集めた「しおっ子ねっと」が併設されている。子育てに関する公共と民間の情報を集約した、ちょっと珍しいサイトなのだ。


酒井亜希さん

北村実里さん

小口宮環子さん

知らない町からお気に入りの町へ

「まぁるい子育てネット」の運営に携わっている市民メンバーは酒井亜希さん、北村実里さん、小口宮環子さんの3人。それぞれ、幼い子を抱えて日々子育てに奮闘しているママさんだ。3人とも、もともと塩尻とは縁もゆかりもなかったというのが興味深い。

酒井さんは愛媛出身で、結婚を機に諏訪に住んでいたが、子どもが生まれて家を建てるタイミングで、塩尻に越してきた。

「夫の勤務先が諏訪なんですけど、長野県内いろいろなところに転勤する可能性があるんです。それで、家を建てる時に、交通の要所である塩尻にすればどこに転勤しても大丈夫だということで6年前に越してきました」

北村さんは生まれも育ちも富山市。2011年、塩尻市で働く旦那さんとの結婚を機に「名前も知らなかった」という塩尻にやってきた。当初は、孤独な毎日を送っていたという。
「塩尻には知り合いが一人もいないから、泣きたくなるぐらい寂しくて、働きに行った先に同年代の女性がひとりいたので、私と友達になってくださいってお願いしました。妊娠してからは、妊婦教室で同じテーブルになった人に、友達がいないから連絡先を交換していいですか、と声をかけてましたね」

小口さんは、お隣りの松本市出身。12年、結婚が決まって家を探す時に塩尻を選んだ。
「私が松本、主人が岡谷の出身なので、方位がよく中間地点でもある塩尻に決めました。それまでは友達も知り合いもいなかったので、塩尻は通過する場所でした」

全くバックグラウンドが異なる3人。最初は不安もあっただろうが、それぞれの生活を送るなかで、塩尻はお気に入りの町になっていった。

「子育て支援センターや屋内公園のこども広場もあって、子育て支援が充実してますよね。それに自然が豊かできれいだし、人も温かいと思います」(酒井さん)
「お散歩をしていると、みなさん声をかけてくれるんです。小学生も自分から挨拶してくれる。今では子どもが自分から大きな声で挨拶するようになりました」(北村さん)
「ワインもあるし、遺跡もあるし、お祭りもあって、見どころが多いですよね。あと、今住んでいる洗馬の空気感が好き。夜、星がすごくきれいなんですよ」(小口さん)


共通の悩みは情報不足

3人は、日が経つごとに塩尻での生活を楽しむようになっていった。
ただ、共通して不便に感じていることもあった。「情報がない」ということだ。特に妊娠、子育て期間中の女性向けの情報が不足しているように感じたという。

そこで、情報がないなら自分で発信しようと考えたのが酒井さん。11年に「子育て応援ホームページ はぐしお」というサイトを立ち上げた。ほぼ個人で取材して記事をアップしていたそうだが、イベント情報、屋内で子どもが遊べる施設の一覧、公園マップなど充実の内容だ。このサイトが縁で、15年に塩尻の情報政策課から連絡があり、「まぁるい子育てネット」の立ち上げに携わることになった。

「自分も出かけて誰かと話したいし、子どもにもいろいろな経験させたいと思ってネットで検索しても、なかなか望むような情報が出てこなかった」という北村さんは、酒井さんにスカウトされて16年から「まぁるい子育てネット」の運営に加わった。
「短大の情報課卒でプログラミングをやったことがあって、趣味でホームページも作ったことがあると酒井さんに話したことがあるんです。それで『パソコンに詳しい人』ということで、誘ってもらいました」

ふたりのような情報発信の経験はないものの、塩尻市振興公社の子春日和のスタッフに声をかけられて「まぁるい子育てネット」の企画会議に参加するようになった小口さんも、こう語る。
「実際には子どもが遊べる場所、支援してくれる場所はけっこうあると思うんだけど、情報がまとまってないから知られていない。それはもったいないと思います」



ママさんたちが求めている情報は、多様だ。例えば飲食店だけでも、座敷の個室やキッズスペースがあるか、小さな子ども用のメニューが用意されているか、トイレにおむつ替えシートがあるか、アレルギー対応の食事があるか、など様々なことを気にかけている。
こういったママたちの「あったらいいな」を常に実生活で感じている3人の目標は明確だ。これまでリアルな口コミでしか共有されていなかった情報を集約し、ママたちの子育てのニーズに応えるサイトにすること。

まだ産声を上げたばかりの「まぁるい子育てネット」だが、3人のママが行政と協力しながら知恵を絞り、丁寧に育てている。

取材:2017年3月

文:川内イオ/写真:望月葉子

塩尻を
耕すための
取り組み

塩尻耕人たち