地元食材を使った加工品で“地域の味”を次の世代につなげたい

矢沢加工所企業組合副理事長:佐倉恵美子さんの耕し方の耕し方

塩尻駅から県道をみどり湖方面へ向かって車で10分、畑と住宅がちょうどいい具合に立ち並ぶ一角に、地元食材でジュース等を製造する加工所がある。兼業農家の主婦7人が13年前に設立した、矢沢加工所だ。矢沢加工所企業組合の副理事長、佐倉恵美子(さくらえみこ)さんに加工所での毎日や、これからについてお話をうかがった。

矢沢加工所の一日

加工所の仕事は朝8:30から始まる。佐倉さんをはじめとした加工所のメンバーは、始業15分程前に集まってくる。軽く朝の挨拶を済ませるとそれぞれの作業にとりかかり、終了時刻は自由。自分の作業が終われば、基本的に帰ってよい。仕事が立て続いたときには、夜遅くまで作業することもあるが、いまは人数も増えて安定しているので、夕方だいたい17時頃には終了する。

素材そのものの美味しさを壊さぬよう、手作業で加工品はつくられていく。たとえば果物ジュース。ブドウは果実を潰さぬよう手で洗ってから、一粒ずつ房から外して加工する。リンゴもヘタを全部取るだけでなく、傷んでいる部分があれば丁寧に取り除いていく。加工を依頼してきた生産者が、実際の作業工程を見てびっくりするという。「大変だけどね。手づくりと機械づくりでは、味が全然違うから」。手づくりだから伝えられる、素材本来の味にこだわっている。

加工所の慣わしで、みんながお昼ご飯に“おにぎり”と“惣菜1品”を持参する。「8人いれば8品のおかずが食べられるでしょう」と佐倉さんは笑う。持ち寄った惣菜を分け合いながらのお昼休みは、その場でミーティングになることもある。


地域の味を残したい

近くを流れる一級河川の支流「矢沢川」から加工所の名前を付けた。それだけ、地域への思い入れもある。
昔この地域では各家庭で味噌をつくっていたが、その味はいま途絶えつつある。「自分の家の味噌の味が忘れられない」という声に応え、「仕込み味噌」の加工も行う。自宅の味噌桶を持ち込んでもらい、仕込みをしたあと返送する。出来上がるまでの管理は各家庭に委ねるが、手入れのタイミングに合わせて連絡を入れる、丁寧なアフターサービス付きの受託加工。「素朴で何も加えていないけれど、これがご家庭本来の味ですよ、と伝えています」。味噌は同じ材料で同じつくり方をしても、各家庭の環境で微妙に味が違うためこの方法で請け負っているという。


来る人拒まず、よそから来た人も大事にしよう

矢沢加工所での丁寧な手作業は数を多くつくれないが、その品質の良さから人伝えによる紹介で、加工の依頼がひっきりなしに入ってくる。最近は塩尻市外からも加工を依頼されることが増えてきた。それでも、大切にしたいのは“地のつながり”。理事長自宅での加工所開設の話し合いから始まり、市役所や農協、塩尻で暮らすさまざまな立場の人たちの助けを受けて、いまの加工所が生まれた。

加工所を建てた当初、ここが村のご老人たちの寄合所になればという願いもあった。実際には場所が手狭で叶わぬままとなったが、一貫して「来る人を拒まず、大事にしよう」という気持ちを持ち続けている。休憩中に宅急便が来たら「お茶飲んできなー」と労い、ガスの集金に来た人にも「上がっていきなさい」と声をかける。
今回の取材でも大勢で押しかけたにもかかわらず、人数分のお茶と手づくりのお茶請けが何種類も用意されていた。プルーンのゼリー、丸ごとトマトのシロップ煮、煮豆、お漬物、果物…などなど。言葉ではない「ようこそ」をお腹いっぱい御馳走になった。



世代交代、若いお母さんに渡していきたい

今年、高い品質の加工品に対してだけでなく、女性だけの加工所を立ち上げたことや、これまでの活動が評価され、内閣府後援「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」の地方創生賞9社のうちのひとつに選ばれた。「なんだか、認められたのかな。ばあちゃんたちの最後の総仕上げだね」と少し照れながらも、嬉しそうに佐倉さんは微笑んだ。

立ち上げ当初に経理を担当していた佐倉さん。加工所での作業を終えたあと、経理事務を自宅へ持ち帰り、ひとり奮闘したこともあるという。発足当時は全員が何でも行っていた。いま経理は事務員に任せ、製造でも若い世代2人が主力になってきている。

矢沢加工所企業組合の設立から13年、パートで働く人も含め仲間は増えた。幸い、開業時の融資返済も間もなく完了するので、そろそろ世代交代の時期。平均年齢78歳となったいま、次の世代へ渡していく方法を模索している。

「私たちは子育てがひと段落してから、ここを始めた。だから一緒に働くお母さんには“子供優先で”」と伝えている。経験してきたからこそ、伝えられる・助けられることがたくさんある。

時代が変わって“農家の嫁が通帳を持つ”ことが当たり前になっても、女性が自分の力で稼いでいける場をつないでいく。



(文:水島綾子、写真:岡田美咲)

*この記事は、「旅するスクール」に参加したメンバーが作成しました。


旅するスクールに参加して

■ライター(水島綾子)
文字おこし原稿(取材時の音声をそのまま書き起こしたもの)を読むたびに、加工所での雰囲気を思い出します。初のインタビュー取材で緊張しているこちらの気持ちを察してか、終始笑みを絶やさずにお話いただきました。後日、お礼と取材内容の確認を兼ねてお電話したところ、電話でも開口一番「ご苦労様でした」と労いの言葉。
「また会いに行きたいな」。そんな気持ちになるのは観光旅行だけでは味わえない、旅するスクールの魅力です。

■カメラ(岡田美咲)
矢沢加工所さんには今回初めてお邪魔することになりました。塩尻にはさまざまな企業があるなあと漠然と思ってはいましたが、お話を直接聞く機会がなかったので詳しく知ることはいままでありませんでした。カメラマンとして、インタビューにお応えしてくださったお二人の表情をまじまじと見つめさせて頂きましたが、やる気と自信に満ちているように見え、こちらにもそれが伝わってきました。初めてのインタビューという体験は、とても良い体験でした。

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