女性支援とインバウンド事業で笑顔をつくりたい!

「GoGlocal」発起人 土屋みどりさんの耕し方 2017.10.3

思い立ったらすぐ行動

塩尻を拠点とする女性の創業支援団体「ココノチカラ」、地元と日本文化の魅力を再発見する国際交流団体「GoGlocal(ゴー・グローカル)」、シェアスペース「MIMOZA」。
この2つの団体と場所は、塩尻出身・在住のひとりの女性が中心となって運営している。その人は、土屋みどりさん。普段は英語の通訳・翻訳業を営みながら、思い立ったら即行動! とばかりに故郷の塩尻を縦横無尽に駆け回っているエネルギッシュな女性だ。

社会人の働き方に注目が集まる昨今、経済学者のピーター・ドラッカーが提唱するパラレルキャリアという言葉に注目が集まっている。「本業以外に複数の仕事や社会活動の場を持つ」という意味で使われているが、土屋さんはまさにパラレルキャリアの実践者である……と書くと、バリバリのビジネスエリートのように思われるかもしれないが、そうではない。人生の紆余曲折を経て、土屋さんがたどり着いたのが現在の生き方だった。

ジェットコースターのような8年間

土屋さんの原点は、レタス農家を営む実家にある。高校時代にアメリカ留学経験を持つ父は、大学を出てからイスラエルで2年間ヘブライ語を学び、イスラエルのつながりで知り合った奥さんと結婚後、故郷の塩尻でレタス農家を始めたという異色の存在だ。

土屋さんが物心ついた時には、父親を訪ねてきたイスラエル人や英語を話せる父を頼って農業研修に来ていたアジアの人たちなど外国人とよく生活をともにするという環境だった。「それが当たり前で何の違和感もなかった」と振り返る土屋さんが高校時代にアメリカ留学を決めたのも、父親の存在が大きかった。
「10歳くらいの時、外国の人と何も言葉が通じないのに話ができるのは不思議だなって思ったんです。それはいつも父が通訳してくれるからで、父を通じてお互いをわかりあえるようになる。それで私も通訳の仕事に興味を持って、高校でたまたま留学プログラムの告知を見た時に、留学しようと思い立ちました」。

その留学プログラムは3カ月と1年のプランがあり、土屋さんが遠慮して「3カ月、留学させてほしい」と申し出たところ、父親は「そんな中途半端でどうする! 一年行ってこい!」と背中を押してくれたそうだ。
しかし、その後の展開は父親にとっても予想外だったのではないだろうか。
留学を終えて地元に戻った土屋さんは、日本の高校の雰囲気に馴染めず退学。神戸に校舎を持つアメリカの大学の日本校に進学するも、阪神大震災が起きて学校が撤退。アメリカのワシントン州にあった本校に転籍する。

現地ではワシントン州立大学に編入し、卒業後、犯罪被害に遭ったのを機に「アメリカでは法律を勉強しないと生きていけない」と改めて勉強を始めて、上級資格のアドバンスド・パラリーガルを取得。現地の法律事務所で職を得たものの、今度は上司にあたる弁護士の倫理観に疑問を抱く事件があり、「倫理観の高い国で働きたい」と2001年に帰国した。

高校2年生で留学してから、退学、被災、転籍で渡米、編入、犯罪被害、法律の勉強、就職、退職、帰国とジェットコースターのような日々だったが、特にアメリカで過ごした8年間で身に着けた英語力と逆境を切り抜けるポジティブな思考が、その後に生きた。


尽きないアイデア

実家に戻った土屋さんは、英語力と法律の知識を活かして塩尻の企業で仕事をしていたが、結婚を機に退職し、特許翻訳・通訳サービス事業を立ち上げた。結婚生活では困難が続いたが、その経験を経て土屋さんの人生は再び加速する。まず、結婚していたことで気づいた「女性の不自由さ」をテーマに、2013年、友人と女性の創業や活躍を支援する任意団体「ココノチカラ」を設立した。
「女性はこうあるべき、という考え方もありますが、ひとつの価値観に縛られては息苦しくなってしまいます。女性がもっと自由にやりたいことをできる環境をつくって、そのサポートがしたいと思ったんです」。

「ココノチカラ」では、女性向けにキャリアデザイン、再就職や起業に関する講座を開き、自立を後押ししてきた。さらに、女性の支援を通して「自分が本領発揮できることはなにか」を考えて、2015年春には任意団体「GoGlocal」も立ち上げた。

「英語の学習と異文化交流を合体させた活動として、ローカルとグローバルを合わせた名前を付けました。私がアメリカにいた時に感じたのは、自分の生まれ育った地域や環境を楽しそうに自慢できる人ほど一緒にいて楽しいということ。そういう人が塩尻でも増えたらいいなと思って、11名のメンバーで外国人の旅行者と英語を学びたい地域の人を結び付けて、一緒に料理をつくったり、漆の工芸品の製作を体験したりする活動をしてきました」。
「GoGlocal」では、これまでに「秋の信州 DE まるで留学キャンプ」を開催したり、外国人旅行者のサポートを務めてきた。この活動を通して外国人が多く訪れる奈良井宿での民泊事業もスタートさせた。

そして、昨春からは大門商店街の空き家を改装したシェアスペース「MIMOZA」を拠点としている。1階がオフィス兼コワーキングスペース、2階がシェアオフィスとなっており、女性の創業支援の一環として、まだ営業場所を持っていない女性がつくった商品やサービスの販売などをしている。



パラレルキャリアの原動力は?

小柄な土屋さんのどこにこれだけのことを同時進行するパワーがあるのかと不思議になるが、土屋さんはまだほかにも現在進行形で進めている計画がある。
「奈良井宿に宿泊できるコミュニティスペースをつくろうと思って、空き家の古民家を探しているんです! そこで、宿泊者や地元の人が講師になって話をする『一期一会講座』みたいなこともやりたいんですよね。よく奈良井宿で民泊した外国人と交流している80歳のおじいさんがいるんですけど、一度も海外旅行したことがないのに、80歳になってこんなに外国の人と交流ができる、この時間が楽しみで楽しみでと言ってくれたんです。それが一期一会講座のアイデアになりました」。

土屋さんと話していると、自然とこちらが笑顔になる。それは、土屋さん自身がこれまでの活動やこれからの計画にワクワクしていることが伝わってくるからで、思わず「楽しそうですね」と尋ねたら、土屋さんは「すごく楽しいです!」と大きくきっぱりと頷いた。

塩尻でパラレルキャリアを体現する女性の原動力は、人生と仕事を楽しむこと。周囲を巻き込みながら、これからも軽やかに塩尻を耕し続けていくのだろう。

(文:川内イオ/写真:望月葉子)


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