学生にも地域の魅力を掘り起こしてもらいたい

信州大学准教授/塩尻市シティプロモーション推進会議会長 林靖人さんの耕し方 2017.2.2

塩尻の特徴って何だろう? 塩尻の良いところって何だろう? それを伸ばすためにはどうしたらよいのだろう? 塩尻はどんな可能性を持っているのだろう?
24、25歳の頃から10年以上、塩尻のことを考え続けている人、それが信州大学准教授で塩尻市シティプロモーション推進会議の会長も務める、林靖人さんだ。

塩尻市民の気質が生んだ縁

林さんは名古屋出身。大学と大学院は信州大学で、現在のお仕事は信州大学の准教授。人生の半分ぐらいは松本で過ごしてきた人が、なぜそこまで塩尻に入れ込んでいるのか。そこには、塩尻市と林さんの深い縁がある。
「大学院を出た後の2004年に、『SCOP』というNPO法人の運営に参画しました。このNPOは大学の研究成果を課題解決に役立てようという組織なんですが、私が最初に大きな仕事として関わった自治体が塩尻市だったんです」。
自治体は、行政の基本方針となる「総合計画」を策定する。総合計画は例えるなら自治体の屋台骨であり、とても重要な指針なので、計画を立てるのは簡単ではない。そこで多くの自治体は、大手のコンサルティング会社に依頼して、サポートを受ける。
塩尻市が「第四次塩尻市総合計画」を立てる際、サポート役として大手コンサルではなくSCOPを選んだのが、林さんと塩尻市をつなげるきっかけとなった。
「普通はあり得ないですよね。それまでは塩尻も大手に発注していたそうですが、そこから切り替えて、僕ら大学発のNPOに任せるという判断をしたわけですから、なかなか勇気のいるチャレンジだったと思います。塩尻は市役所の人たちの感覚が若いし、新しいことに対する感受性が高い。これが塩尻市の強みのひとつですね」。


確かにずいぶんと大胆な塩尻市の決断に思えるが、総合計画づくりに入った林さんが塩尻について調べ、よく知るようになると、そういうことか、と納得したという。
「塩尻は北、南、西の三方に抜けられる交錯地点で、縄文時代から平安時代にかけての大集落跡である平出遺跡があるように、昔から人の出入りが多い土地なんです。だから、町の人たちが外から来る人や新しいことに対してうまく適応できるのだと感じました」。
総合計画に携わった後、林さんはSCOPの理事・主任研究員として塩尻市と二人三脚で仕事をするようになり、07年3月に制定した『地域ブランド』戦略などにもかかわってきた。重視したのは、塩尻の特徴を活かして内と外の人の交流を促すことだった。
「市民交流センターえんぱーくは、この施設をどう使うのか、何度も市民とワークショップをして、それから設計したものです。ここは10年にオープンしてから5年で来館者が300万人を達成して、県内の交流施設のなかでも一番人が集まる場所になっていますよね。塩尻ワイナリーフェスタなども、市と連携していろいろな形でプロモーション活動をサポートしてきました。いまではチケットが手に入らない大人気イベントになっていますが、側面支援になったのではと思っています」。


学生たちの第二の故郷に

08年から信州大学で勤務を始めた林さんは、15年より、「どうやったら塩尻に人を呼べるのか」という課題を掲げて、担当する授業「地域ブランド実践ゼミ」で塩尻市との共同研究をスタート。塩尻市の企画課シティプロモーション係の山田崇さん・松倉さんが連携研究員として授業に参加し、受講生とともに塩尻を訪問して研究を進めている。
最近の研究テーマは、「ローカル・ライフワークバランス」。これは、「仕事とプライベート」がきっちり分かれている都会とは異なる地方の仕事と生活の関係に焦点を当てて、学生たちが塩尻の商店や企業で働く人にインタビューをするという実践的な授業だ。
16年12月には、塩尻市とリクルートホールディングスが結んだ包括連携協定の一環として、林さんのゼミで「リクルートホールディングスの新規事業」をテーマに特別講義とワークショップが行われた。リクルートの事業「あいあい自動車」の事業責任者から地域の課題を事業で解決する手法を教わるという学生なら垂涎の内容で、これも塩尻市と林さんの関係があったから実現したものである。


こうしてさまざまな角度から若者と塩尻市の交流を深めることで、大学の授業という枠を超えたつながりが芽生えているという。
「授業が始まったら最初に泊りがけで塩尻に行って、夜中まで塩尻を満喫します(笑)。その後も、フィールドワークで塩尻に何度も来るようになりますが、まちの人と関わるうちに、彼らも塩尻が大好きになってくるんですよ。そのうちに授業と関係ない時に塩尻に来ていたり、学年が変わった後も塩尻に通っていたりして、塩尻は第二の故郷、生涯忘れることのできない場所になってますね」。

塩尻のポテンシャル

15年4月に始動した塩尻市シティプロモーション推進会議の会長でもある林さんは、塩尻のポテンシャルを高く評価している。
「塩尻のように人口6万人くらいの地域だと、誰かに会おうと思ったら比較的簡単に会えるじゃないですか。この規模感と市民のオープンな気質が塩尻の強みで、『塩尻未来会議』などを通じて人のネットワークを作っていくと、自分が何かやりたいなと思った時に一緒にやってくれる人を見つけやすくなる。この環境を作っていくことが、シティプロモーションの重要なポイントだと思います」。
近年、地方の自治体はいかに人口を増やすかに頭を悩ませているなかで、塩尻には注目すべき変化が起きている。14歳~65歳までの生産年齢人口が増えているのだ。
林さんは、最後にこう結んだ。
「『地方消滅 – 東京一極集中が招く人口急減』という書籍が話題になりましたが、僕は今後、大都市よりも柔軟な考えと行動力を持った小さな自治体ほど生き残る力が強くなると思っています。生産年齢人口を惹きつけて、町の根源となるエネルギーをしっかり持ち、チャレンジし続けている塩尻のように」。

取材:2017年1月

文:川内イオ/写真:望月葉子


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