「民間企業と連携しやすい自治体100選」

自治体職員によるオンラインコミュニティ「市役所をハックする!」の耕し方

「民間企業と連携しやすい自治体100選」とは?

2019年10月に立ち上がった、自治体職員によるオンラインコミュニティ「市役所をハックする!」。さまざまな地域で活動する自治体職員が仮想市役所に集まり、それぞれの地域課題を官民連携などによる共創プロジェクトで解決を模索しようという取り組みに参加する自治体職員、民間企業人は30人(シーズン1は46人参加)を超え、現在はシーズン2(2020年5月〜2020年10月)が終わり、シーズン3に向けて準備をしています。(2021年1月スタート予定)

2020年3月21日には、「未来をハックする!フォーラム」をオンラインにて開催。その中で「民間企業と連携しやすい自治体100選」について、ゲストに石井重成さん(釜石市役所 オープンシティ推進室長)、晝田(ひるた)浩一郎さん(株式会社官民連携事業研究所 チーフマネージャー・当時 岡崎市役所)、秋田大介さん(神戸市役所 つなぐラボ 特命課長)を迎え、その内容や作成に至った背景が発表されました。

司会進行は、山田崇さん(塩尻市役所 地方創生推進係長)と光野由里絵さん(島根県 雲南市役所 政策推進課)です。


山田:まずは、「民間企業と連携しやすい自治体100選」をどうしてつくることになったのか、そのきっかけをお話する必要がありますね。遡ると、2019年11月29日のイベント「官民連携による社会課題解決プロジェクトの作り方」の際に、官民連携といっても、民間企業からするとどの自治体と組めばいいのかわからない、という話が挙がったんですよね。イベント会場でもあり、登壇いただいたBASE Qの光村圭一郎さん(三井不動産株式会社)から、民間企業とベンチャー企業でも同じで、組みやすい100選みたいのがあればと提案をいただいて。それが発端で「民間企業と連携しやすい自治体100選」をまとめることになり、晝田くんを中心に、指標づくりや自治体の参加呼びかけ、スコア化まで議論を重ねてきました。

晝田:2019年11月29日のイベントは、石井さんがゲストで登壇していただいたんですよね。

石井:そうですね。“バイリンガル人材”の作り方について議論をしたんです。バイリンガルというのは、官と民という意味で二つの言語です。官民連携の必要性については、疑う余地がないと思うんです。企業としても、近年は社会課題そのものがビジネスの原点だという議論、あるいはオープンイノベーションをつくっていくときに、自社に限らずさまざまな方と一緒に仕事を生み、育てていく、そんな経過が求められています。


一方で、我々のような地方行政に関わる人間からすると、人口減少、少子高齢化という背景はもちろんですし、持続可能性自体のトランスフォーメーションが必要だということだと思うんです。でも、官民連携ってなかなかうまくいかないというか、そもそも、どうアクセスすればいいのかわからない。僕が参加したグループセッションでの大きな論点が、その「アクセス」だったんです。民間企業は、どの自治体の、誰に話したらいいのかがわからないし、行政側も同じ。そんなモヤモヤがきっかけでしたね。

晝田:それなら、こんな指標がレーダーチャートで見れるといいんじゃないかと、案を出していきました。でもこのイベントで議論を終わらせたらいけないと、石井さんと光野さん、そして「市役所をハックする!」のメンバーにも加わってもらい、月に1回オンライン会議をしてブラッシュアップしてきました。そして今日、いよいよ発表です。


では、「民間企業と連携しやすい自治体100選」の8つの指標から紹介しましょう。

指標1:ICTを活用した政策情報の発信
指標2:課題を深掘りする仕組みや土壌
指標3:社会実験や実証実験への挑戦
指標4:民間に強い職員の存在
指標5:地元に強い職員の存在
指標6:庁内に強い職員の存在
指標7:2020年のトレンド(民間人材の副業活用等)
指標8:ワイルドカード

具体的には7つの指標と、8つ目は各自治体がそれぞれの強みを答える「ワイルドカード」です。

山田:この指標に答えてくれたのは、現時点で38自治体ですね。ここからは具体的な事例として3つの地域、岡崎市、塩尻市、神戸市がどんな内容なのかを深掘りしていきたいと思います。

岡崎市、塩尻市、神戸市のケースから見えてくること

晝田:では、愛知県岡崎市から説明していきましょう。岡崎市は、愛知県の真ん中にある自治体です。「人・水・緑が輝く 活気に満ちた 美しい都市 岡崎」というキャッチコピーで、人口は約39万人、職員数は約3,500人。官民連携に力を入れていて専門の部署があり、乙川リバーフロント地区の公共空間を結ぶ回遊動線づくりプロジェクト「Quruwa(くるわ)戦略」、電動モビリティ実証実験、発酵食品同士の掛け合わせで生まれる新しい味を発見する「カルピス×八丁味噌」などの官民連携プロジェクトを進めています。先ほどの8つの指標に基づいて、自己採点をグラフにしたものがこちら。灰色が38自治体の平均で、岡崎市は青色なんですが、まだできていない点も見えてくる。突出しているのは、庁内に強い職員の存在がいることですね。

*当初(2020年3月時点での作成シート。当時、晝田さんの肩書きは岡崎市役所職員)


山田:この8つの指標には晝田くんが答えているんだよね。岡崎市の別の職員だったら違う結果になるかもしれないけど、個人の主観をもとにつくったことが一つの特徴ですね。


では、長野県塩尻市をご紹介します。


塩尻市は、官民連携プロジェクトとして「地方創生協働リーダーシッププログラム(MICHIKARA)」を2015年から実施しています。首都圏の大手企業と連携して、行政課題を民間企業社員と市の担当職員が一緒に課題解決案を検討し、翌年度の予算編成につなげる仕組みとして実施するというもの。第65期までやってきて、現在では、首都圏の計151社の大手企業と、32の地域課題解決に向けて動いています。

それと、市が運営するシビック・イノベーション拠点「スナバ」では、コワーキング/アクセラレーター(起業家育成プログラム)/リビングラボ(企業ローカル事業案件支援)の3つの機能を持っていて、行政だけでは解決できない地域の課題を、民間企業や市民と一緒に解決していく、そうした官民連携の取り組みに力を入れています。

指標8の「ワイルドカード」は、自分たちの強みだから必ず10点満点。「地域課題を自ら解決する「人」と「場」の基盤づくりの推進(スナバ、MICHIKARA)」と記入しました。「人」と「場」の基盤づくりを、塩尻市の総合計画の中にも位置付けているんです。それから、課題を深掘りできる市の職員がいる。それが塩尻市の強みだなと感じていますね。

 

秋田:次は兵庫県神戸市です。


「若者に選ばれるまち+誰もが活躍するまち」というキャッチコピーを掲げていて、多くの官民連携プロジェクトが進んでいます。外部人材の登用や、地域の課題とスタートアップをマッチングするオープンイノベーション・プラットフォーム「Urban Innovation KOBE」は知られるところでしょうか。そしてアドバンテージがあるのは人口ですね。人口約153万人、職員数は約21,000人。職員が2万人もいれば、面白い人材も何人かはいるだろうと。指標に答えるとき、想定できる事業や人がたくさん浮かんできたんです。逆に、人口が多い、職員数が多いということが、この「民間企業と連携しやすい自治体100選」の一つの課題にもなりうるかもしれないですね。サイズ感の大きい都市ほど、それなりの事業がありますし。

山田:それは、秋田さんが市職員と繋がっているからですよね。庁内にどんなユニークな職員がいるのか、それぞれの職員がどういった強みを持っているのかを知っておくことは、じつはすごく大切なことなんじゃないかなと。

秋田:確かに、僕は「企画調整局つなぐラボ(特命ライン)」といって、行政の縦割りを解消しつつ、関係部署や官民の間の「つなぎ」と、連携強化を進めながら課題解決に導いていく専門部署にいるので、僕自身ができなくてもこの職員ならできるって繋ぎ先がたくさんあるのは強みですね。

 

実社会において、どのようにイノベーションを実装していくか

晝田:山田さんは8つの指標に向き合ってみて、どうでしたか?

山田:そもそも、指標をつくることができたのがよかったですね。市職員が、普段からどんなことを大切にしなきゃいけないのかを考えるきっかけを今回、いただいたのかなって。だからスコアが低いから悪いということではない。低い部分は、ちゃんと伸ばしていくべき大切な事柄であると。それと、指標の7つ目は「トレンド」ですが、今回は外部人材を活用しているか、自治体の職員が出向しているか、地域おこし企業人の制度を活用しているかなど。これは例えば2025年には変わってくるのだろうと思います。(現在ならコロナ禍にどう向き合って、迅速かつ柔軟に適応しているか)BASE Qの光村さんからもコメントをいただきたいです。

光村:こんな形で実現するとは思いませんでした。課題意識としてあったのは、僕は大企業のオープンイノベーションをサポートする立場にいるんですが、スタートアップのみなさんから選ばれる大企業であるためには、我々と組むとこういうことがうまくいきますよ、とわかりやすく世の中に示していく必要がある。それと全く同じことが自治体にも言えるのではと、お話をさせていただいた記憶があります。

8つの指標は、すごく納得感がありますね。地元に強い職員がいるとか、庁内に強い職員がいるとか、民間側から相談を持ち込んだ後、市役所の中や地域でどんなふうに合意形成がされていくのか、外からはわからないので、中にいる人が、そこに強みや弱み、課題があることをまとめられたのがいいなと。

山田:あらためて“官民連携”に対して、光村さんはどのような関心がありますか?

光村:いわゆるイノベーションって、いま大きな波が来ていると感じているんです。1990年代後半にインターネット革命が起きて、その第二段階として、この社会のさまざまなものが本当にインターネット化していく時代を迎えているなと思っていて。これまでのようにWebサイトやアプリをつくってビジネスをするという話ではなくて、リアルな実社会においてどのように実装していくか、そういったパラダイムシフトが起きているんじゃないかと。そうすると、これまでつくってきたルールや常識というものをどんどん上書きしていく必要があると思っているんです。

そして、市職員などいわゆる官の立場の人は、まさにルールをつくってきた側だったりする。そこを放置したまま、こっちで勝手にイノベーションやっておきますからってわけにはいかないですよね。

山田:なるほど。私たち市職員は、リアルな社会で実装していくための当事者だから、つくったり、変えていくことができるわけですね。

8つの指標 = 8つの問いに向き合うこと

晝田:それでは続けて、8つの指標にある「詳細項目」を説明していきましょうか。指標1から7まで、それぞれの指標に対して、5つの詳細項目を設けています。


晝田:指標8は「ワイルドカード」として、自分の自治体の強みを自由に書いていただくため、詳細項目は設定していません。つまり、7×5+1=36の詳細項目から、8つの指標がつくられていることになります。

山田:そして、現時点のランキングもできているんですよね。

晝田:1位が神戸市、2位が雲南市、3位が塩尻市。他には日南市など、官民連携でよく名前を聞く市町村が上位に挙がっていました。

光村:自己評価でも、そうした傾向が出るんですね。「市役所をハックする!」に自治体とやってみたいテーマなどを投げれば、それならこの自治体がいいよ、とさばいてくれる機能があるといいかもしれませんね。


山田:それと、この8つの指標って、自治体の職員研修のコンテンツとして最適なんですよね。また、「民間企業と連携しやすい自治体100選」がそのまま自治体のプロモーションにもなると捉えることもできます。

石井:まずは、この「民間企業と連携しやすい自治体100選」に、38の自治体が答えてくれたという事実に意味があると思います。そこには答えてくれた人がいて、職員の顔が見えるってことですよね。見方を変えると、組みやすい地方公務員リストでもある。また、自治体がどう組織づくりをしていくべきないか、どう職員の育成をしていくべきないかというエッセンスが詰まっているように思います。これを組織づくりや職員研修に生かしていく、そうした広がりにも期待しています。


山田:最後に光村さんに、感じたことや、市職員や民間企業の方たちへのメッセージをいただきたいと思います。

光村:8つの指標をあらためて分類してみると、文化やインフラといったベースをどうつくり、その上で職員がどのように活躍し、そして制度をどううまく使っていくのか、その3階建てなんだろうなと感じました。指標は8つとも全て重要だとは思うんですけど、あえてここが肝なんじゃないかと思うのは、指標の2つ目の「深掘り」かなと。深掘りができないと表面的になってしまうし、深掘りをする文化があるかを問い直す必要があると思うんです。深掘りができて初めて、異端児と言われるかもしれない優秀な人材がより具現的に活躍できますよね。

晝田:今後は、参加自治体を増やしていきたいと考えています。また、公共政策を研究している大学機関などとも連携したいなと。自治体のみなさんには、ぜひチャレンジしてみて欲しいです。


山田:まだまだ、これからの参加も受け付けています。(アンケートリンクはこちら)ぜひ実際に答えてみてください。時間はかかりますが、得られるものが大きいんですよ。あらためて、ご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。

▼アンケートリンク

https://forms.gle/jdBwizZG42YWMhmK9

 

塩尻耕人たち