おもてなしマイスターとして、人と人を繋げていきたい

「BAR On The Road」マスター 米窪直美さんの耕し方 2018.2.1

塩尻市唯一のおもてなしマイスター

塩尻市大門地区にある「BAR OnTheRoad」。階段と踊り場には、大小さまざまなドクロの置物が所狭しと置かれている。扉を開くと天井にあるミラーボールが目に留まり、まるでライブハウスのような空間が広がっていた。

店主の米窪直美さんは、8年間1人で営業を続け、年間6000人から8000人のお客さまをもてなす。生まれてからずっと塩尻市在住という筋金入りの塩尻人。塩尻市唯一のおもてなしマイスターであり、現在はシルバーマイスターとして「おもてなし」を塩尻で広げている。おもてなしマイスターとは、長野県が認定する「おもてなし」の向上に取り組む地域のリーダーである。

店名「OnTheRoad」は、大好きな浜田省吾のツアータイトル「ON THE ROAD」とジャック・ケルアックの小説「On the Road」からつけた。家に帰る途中はもちろん「何かの途中」に立ち寄れる場所にしたい、いろんな人の道しるべになりたいと思ったそうだ。
バーで目指したことは2つ。「女性が飲みに来られるバーであること」と「塩尻にはライブハウスがないので、音楽を発信すること」だ。


コンセプトは「あなたのあと少しを叶えたい」

仕事を探していたある日、ずっと空き店舗になっていたお店がかつてバーとして使われていたことを知った。それが、「OnTheRoad」の始まりだ。塩尻は昔からいわゆるスナックというよりは、外国人が接客するお店の方が多い特殊な町だ。塩尻市内で女性がお酒を飲みに出るとき、居酒屋から居酒屋にハシゴするだけで、女性が立ち寄れるお店がなかった。
「あと1杯飲みたいとか、あと少し話して帰りたいっていう、女性の気持ちを叶えたいと思ったんです。1週間悩んで、バーをやろうと決めました」。企業理念は「あなたのあと少しをかなえたい」。その想いは今でも変わらない。

開店当初は、「女性が気軽に飲みに来られるお店にしたい」という米窪さんの想いは、なかなか理解されなかったという。しかし、開店して1年経つか経たないかという頃、地元のサッカースクールのお母さんたちが二次会で利用してくれた。21人のお母さんたちとコーチ3人、24人ほぼ女性で満席にしたとき、米窪さんは「よし、きたっ」とカウンターの下でガッツポーズしたそうだ。


音楽フェス「しりフェス」を主催

昨年、音楽フェス「しりフェス」を開催した。お店には塩尻出身の方はもちろん、北は北海道から南は沖縄まで、延べ1000人以上のミュージシャンが歌いに来てくれた。
「成功は儲かったとか、人がたくさん入ったとかではく、参加する人も、手伝ってくれる人も全員楽しむこと」と米窪さんは言い切った。「始まったら私はお客さんになっちゃって、とりあえず楽しんでた」と豪快に笑う。
今年、2回目のしりフェスを開催した。フェスの運営は大変だが、米窪さんは、できる人にできるところをお願いするというスタイルを取っている。そこには「自分のできないことは、人の能力に頼る。皆それぞれ能力を持っているから」という想いがある。人を信じて任せることは、勇気が必要で難しいことでもある。しかし、皆で楽しむことを一番に考え、自分自身も楽しむのが米窪さん流だ。


お店を閉めようと休業したことも

「実は今年の2月にお店を閉めようと思っていたんです」とさらりと言われた。決定的だったのは、土曜日にお客さまがゼロの日があったこと。「無借金経営を貫いてきたので、借金してまで続けていく価値は私の中になかった。もういいかなと」。土曜日にだれも来ないのは辛い。7年目を迎え、ボロボロになっていた看板を外して閉めるつもりで休業したそうだ。

「休業した日に友人と諏訪で飲んでて、ふと気づいたら携帯電話の通知が3桁になっていて。翌日は通知が4桁になっていたんです。そんな騒ぎになると思わなくて。『これは参ったな、本当に悪いことしたな』と思ったけど、1つ1つ返信できないから、とりあえず、全部無視して電源を切りました」と米窪さんは笑った。
2月いっぱい考えて、再開を決めた。「いろいろなものを足し続けて膨らんでしまったから、もっとのんびりした気持ちでやってもいいかな」と、再開当初は営業日数を減らしたそうだ。現在は元の火曜定休に戻している。



米窪さんのパワーの源とは

「人と人をつなぐっていう意味では、耕すというより耕してもらう“種”をまく。そういう役割になれればいいな」と米窪さん。
日々心がけていることは3つだそうだ。「1つ目は、”集めること”。情報、人、やりたいことを集める。2つ目は、“調整をすること”。人のやりたいこと、気持ち、時間的なスケジュールの調整。3つ目は、“その気にさせること”。最終的に、どれだけその気になったかが一番大事。だから、関わる人をその気にさせられたらいいと思ってる。そして、集めて、調整して、最後終わったときに、みんなが楽しかったねって終わることが最高」。

BARを拠点に、しかしBARにおさまらず、おもてなしマイスターという枠にもおさらまず、さまざまな場所で人をつなぐ種を蒔き続ける、米窪さん。次はどんな種を蒔くのだろうか。

取材:2017年11月

*この記事は、「旅するスクール」に参加したメンバーが作成しました。

文:梅田果歩
写真:内海麻里
編集:鈴木麻美

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