一歩踏み出す力を持つ子どもたちを育てたい

塩尻西小学校 校長 赤羽高志さんの耕し方

昨年10月と11月の某日、塩尻市の中心市部でいつもとはちょっと違う風景が見られた。大勢の子どもたちが商店街を訪れ、空き家や空き店舗の掃除を行ったのだ。
ふだんは人影まばらな日中の商店街を子どもたちが元気いっぱいに歩く様子を見て、目を細めるお年寄りの姿も見られたという。
これは、塩尻市と塩尻西小学校の取り組みで、10月に小学校3年生、11月に4年生が地元の大門商店街にある空き家や空き店舗を掃除し、所有者に地域の歴史や仕事の話を聞くという総合的な学習の時間の授業だった。名付けて「西の子とおそうじなのだ」。

文部科学省のサイトには、総合的な学習の時間について「変化の激しい社会に対応して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることなどをねらいとする」と書かれている。この「ねらい」に沿って全国の小学校で工夫を凝らした授業が行われているのだろうが、「空き家の掃除と住民」をテーマにした授業は全国的にもユニークな内容である。
「学校」というと、ケガなどのリスクを避けるために前例にないような取り組みには消極的というイメージがあるが、塩尻西小学校の赤羽高志校長は、初めての試みである「西の子とおそうじなのだ」の案を聞いて、「やってみましょう」とすぐに許可したという。
そこには、「失敗してもいいから、一歩踏み出す力を持つ子どもに育ってもらいたい」という赤羽さんの思いがあった。


実験はいつも同じ結果になるとは限らない

塩尻の隣町、上伊那郡辰野町出身の赤羽さんは、小学校5年生のときには「将来は学校の先生になろう」と心に決めていた。
「子どもの頃から、小さい子も含めてみんなで遊ぶのが好きだったんですよ。それで、小学生のときから先生方に『教員になったらどうだい』と言われていたし、私も先生方のことが好きだったから、自然と教師を目指すようになりました」。
初志貫徹で、大学を卒業後、23歳で長野県の教員に。その後は県内のあちこちの小学校に赴任し、地域によって異なる文化を体感しながら、経験を積んできた。
「全校児童が1400人ぐらいいるマンモス校で3年間勤めた後、児童数100人、5年生12人の担任として、山のなかの学校に赴任したこともあります。まさに『24の瞳』でしたね」。

今年で教員歴は36年。教え子の数は、もう数えきれない。膨大な数の子どもたちとの出会いと別れ、そして各学校での教員同士のつながり、さまざまな勉強会や仲間との議論を経て、次第に子どもたちのチャレンジを大切にしながら、思い切って学校の外にも出るような指導をするようになっていった。
このスタイルは、赤羽さんがもともと理科の教員だったことも関係している。理科の教科書には、化学反応などについて「こうしたらこうなります」と書かれているが、実際にはいろいろな条件が重なって100回やれば想定と異なる結果が出ることもあるそうだ。机上での学習だけをしていたらそのことを知る由もないが、子どもたちが自ら実験してみることで、予想外のことが起きることに気づく。
そのとき、自発的に話し合いが始まり、新たな発見を得る。
もちろんこれは、理科の実験だけにとどまらない。ほかの科目でも、一方通行に教えるのではなく、手を動かしたり、現場に行ってみたりして体感することで、子どもたちの内側から何かが生まれてくるという。
「子どもってすごいんですよ。危なくない範囲でやりたいようにやらせてみると、私の予想を超えるような意見が出てくる。そういうことに出会うと、子どもの可能性をできる限り伸ばしてあげたいなと思うんです。事前の準備やリスク管理がものすごく大変なんですけど、それをやるだけの価値がある」。



「校長先生頑張れ!」のコール

塩尻西小学校の校務主任の先生と塩尻市職員の山田崇さんが共同で「西の子とおそうじなのだ」を企画して話を持ってきたときにも、同じ感覚で許可を出した。
全国の地方自治体と同じく、塩尻でも空き家の増加が問題になっている。そこで、子どもたちに資料を配って教室で地元の空き家問題について話をしたところで、「へー」「ふ~ん」で終わってしまうだろう。
実際に空き家まで出向き、なかに入って掃除をして、持ち主から「昔はもっと賑やかだった」と話を聞くことで、子どもたちのなかに例えば「まだ使えるのにもったいない」「もっとまちを賑やかにしたい」という想いが生まれることを期待しているという。
実は、赤羽さんは塩尻西小学校に着任したのは2016年4月で、まだ日が浅い。でも、子どもたちは敏感だ。この校長先生は、頭ごなしに叱ったり、理由もなく禁止したりしない人だと感じ取っているのだろう。校長室に子どもたちが訪ねくると聞いて驚いた。
「月に1回、校長講話あるんですけど、私は何かを参考に話すのではなくて、自分が何かやってみたときのことをよく話します。そのときに、失敗したこと、痛い目にあったことも正直に話すようにしています。
そうそう、この前の校長講話のとき、みんなの前で理科の静電気実験をやったら、本当に失敗してしまったんですよ。そうしたら子どもたちから、校長先生頑張れ! ってコールが起こって、それが嬉しかったですね(笑)」。
学校のなかで「一番偉い人」である校長先生がチャレンジする姿を見せ、さらにみんなの前で失敗したり、格好の悪いところも隠さない。それはきっと、子どもたちの心にも何かしらの影響を与えるだろう。


取材の終わりに、赤羽さんはガキ大将の頃を思わせるような表情でこう言った。
「今度は、日本一短い校長講話をやろうかなと思っているんですよ。校内放送にして、一瞬で終わるようなやつを考えています(笑)」。

文:川内イオ 写真:望月葉子

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