塩尻未来会議オンライン

2020/5/26

組織の原点は、人が人らしく生きて関わり合うこと。「 塩尻未来会議オンライン vol.1  ゲスト嘉村賢州さんと『ティール組織』を考える」を開催しました!

「塩尻未来会議」は、塩尻市の未来を、市民と市役所が一緒に描いていく対話プロジェクト。2013年からスタートした「塩尻未来会議」では、市民や企業、NPO、そして行政など、塩尻のさまざまなみなさんとの対話の場となることを目指して、継続的に開催されています。

 

今回は初めてのオンライン開催。塩尻市で8月から始まる関係人口創出・拡大事業「MEGURUプロジェクト」に先駆け、外部から講師をお呼びして8回連続で開催します。記念すべき初回のイベントは、5月26日(火)に開催。塩尻市地方創生推進課の山田崇さん、塩尻市特任CCO(Chief Communication Officer)であり株式会社ガイアックス 社長室兼コミュニティディレクターの千葉憲子さん が進行をつとめました。

 

ゲストに東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授・嘉村賢州さんをお招きし、「これからの公共を担う組織」について、次世代の組織形態として今話題を集めている「ティール組織」をヒントに考えました。

 

初のオンラインでの開催となった今回、塩尻市だけでなく県外からも多くの方が参加。まずは、開催の背景について、山田さんから説明がありました。

 

山田さん「塩尻市では、2021年から3年間、第3期中期戦略を策定しようとしています。行政だけでなく、市民の皆さんとの対話を通じて塩尻の未来を考えていきたいと思っていて。

 

ここで言う『市民』というのは、塩尻に住んでいたり、働いていたりする人だけではありません。塩尻に関わりたい、塩尻のために何かしたい、と思っている人たちも『市民』と捉えています。市外の方にも積極的に参加いただき、オンラインだからこその可能性を探っていきたいです」

 

今回お話をしてくださったのは、大学院でのリーダーシップ教育や、企業の組織変革に携わっている嘉村賢州さん。

嘉村賢州さん

東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授。特定非営利活動法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事。15年前に京都の街づくりプロジェクトで事務局長をしたご経験から、原点は街づくりにあるというお話もしてくださいました。

 

嘉村さんは2014年にフレデリック・ラルーの著書『Reinventing Organizations』で紹介されたティール組織と出会い、衝撃を受けたそう。「これは世界の未来を照らす概念だ」と感じ、世の中に広めているそうです。次世代の組織論として注目を集めている「ティール組織」について、丁寧に解説をしてくださいました。

 

原点は、「トップも現場も幸せじゃない社会」への課題感

ティール組織の原点は、現状の組織に対する課題感だったそう。著者のフレデリック・ラルー氏(以下ラルー氏)は経営者向けにコーチングを行う中で、「もともと想いも強くビジョナリーだった経営者たちが、エネルギーを失い、「べき」論に振り回されるようになる姿に疑問を抱きました。さらに、従業員への調査でも働きがいを感じていないという声が多く、「トップも現場も幸せじゃない社会」への違和感を強く覚えます。

 

ラルー氏はこの違和感・課題感の解決のヒントを、人類の歴史に探しました。農業や政治など、ありとあらゆる分野の歴史を紐解いた結果、ある一つの仮説を導きだしました。

狩猟採集文化から農耕社会へ変わったことによりしつけの概念が生まれ、原始的な組織構造が発生。次に18世紀半ばの産業革命によって、一定の評価基準で人を測る機械的な組織構造が生まれた。

 

それは、人類は誕生以来いくつかの世界観のジャンプを経験しており、そのたびに組織の在り方が変わっているということ。さらに今、あらゆる分野で新しいジャンプが起ころうとしていることです。ラルー氏は、まさに今が、新たな組織が誕生するタイミングなのではないかと考えました。

 

その仮説をもとに、世界各地で従来のやり方とは全く違った組織の事例を集めます。その結果、成功している組織の形態には共通点があることに気がつきました。これこそがラルー氏が提唱した新しい組織形態、「ティール組織」なのです。

人類の進化を経て、ティール組織が誕生

ティール組織とはどんな組織なのでしょうか?それを説明するためには、これまでの組織形態を振り返ってみる必要があります。ラルー氏は、組織形態を5つの段階にまとめました。

人類の歴史を辿って分類された、5段階の組織の進化形態。

 

まずは、オオカミの群に代表されるように、力によって短期的に人を支配する「レッド」。その次の段階が、軍隊に代表される「アンバー」です。階層構造が生まれ、指示命令系統が確立されて業務プロセスが明確になりました。

 

さらに、アンバーの中で組織間の競争が生まれたことで、より生産性を追い求めるようになり、「オレンジ」の組織形態が誕生しました。オレンジの一番の特徴は、画一的なマネジメントで実力主義の組織をつくったこと。この組織形態によって、世界中の多くの企業が発展していきました。オレンジは、大企業をはじめとする多くの組織で採用されている形態です。

 

嘉村さん「この組織の問題は大きく分けると3つあります。まずは、承認プロセスが多くなることで現場から意見が出にくくなること。次に、個人の適性を生かせないこと。優秀な人材は適性に関わらずマネジメントを行うことになるので、マネジメントよりも専門性に長けている人は、力を活かすことができないんです。最後の問題点は、ポジションが固定されてしまうこと。『かけがえのない人生を、一生同じ職場で過ごすことが果たして豊かなのか?』という問いが生まれたのです。」

 

そこで誕生したのが、様々な価値観を受け入れ、多様性を大事に働く「グリーン」の組織。「家族」のような組織です。

嘉村さん「一見、色々な価値観を受け入れ、ざっくばらんにアイディアを出し合おうとする理想的な組織に見えますが、問題も出てきた。簡単に言うと、『船頭多くして舟山に登る』状態になってしまうんです。意見がたくさん出てもまとまらない。加えて、社長は常に他の経営者と関わる経験が多く、四六時中経営について頭をひねっていることから、突き抜けて視野が高くなる傾向があり、みんなで決めたことを社長が覆すことが増えるのです」

 

ここで出てきたのが「ティール」組織。グリーンで残ったゆるやかな階層構造もなくし、指示命令系統がなくても、信頼関係で繋がった個人が高いパフォーマンスを出す。そんな組織の事例が世界中で出てきたのです。

 

3つの特徴「自主経営」「全体性」「存在目的」

ティール組織には、3つの特徴があります。

まずは、「自主経営(セルフマネジメント)」。指示命令系統がなくても、それぞれが組織全体の調和をとって意思決定できる状態のことを指します。意思決定するときは、従来型の組織に多い「承認プロセス」や「コンセンサス」は取らず、「助言(アドバイス)プロセス」をとることが大きな特徴です。

 

嘉村さん「そもそも一人ひとりが決定権を持っているのがティール組織。ただ、それでは組織として調和がとれず、崩壊につながってしまいますよね。だから、判断に迷ったときには、専門性を持つ人にアドバイスを求めましょうと。

 

もらったアドバイスは真摯に受け止める必要がありますが、最終的な意思決定は本人に委ねることになっています。そうすることで、メンバーが他責にならない仕組みを作っているんです。自主経営を成立させるためには、お互いを信頼する文化や、情報の透明性が必要ですね」

 

ティール組織の2つ目の特徴として挙げられたのが、心理的に安心、安全な職場であることを大切にする「全体性」です。

 

従来型の組織が、仕事において合理性や効率性を重視していたのに対して、「人と人のつながりや温もり」などの人間らしい感情に重きをおきます。たとえば、「メンバーみんなでアイデアを出し、目標を達成したら共に喜びを分かち合う」、そんな職場がティール組織には多いそうです。

 

最後に挙げたのが「存在目的」。長期の経営計画などを策定せず、メンバー全員が対話することで自らの存在目的を探求し続ける形を取っています。

嘉村さん「ティール組織では、現場でどんどんアイデアを実践し、価値を見出し、素早く結果を共有します。そしてまた、改善したアイデアを実践する。このサイクルを繰り返していくことで、環境の変化に強く、新しいものを生み出し続けられる組織になるんですね。こうした組織を実現させるためには、失敗を許容し、お互いの意見を聞き合う文化が不可欠です」

 

では具体的に、どんな組織がティールにあたるのでしょうか?嘉村さんは、いくつかの世界の事例を紹介してくださいました。例えば、オランダの訪問医療組織ビュートゾルフ。もともとオランダの訪問医療の業界は、個人経営的な仕事の仕方が普通でしたが、その後組織化が進み、効率化が図られてきました。生産性は高まったものの、利用者や働く人の感情を置き去りにした部分もあり、不満が高まっていました。そんな中、代表のヨス・ブロックが10人ほどの規模から新しい組織を作って始めたのがビュートゾルフだそうです。

具体的には、メンバーを12人程度のチームにわけ、ほぼ全ての権限を与えることにしたのです。リーダーはつくらず、チーム内で話し合い意思決定して、訪問医療に当たることにしました。加えて、各チームには命令権限のないコーチが伴走し、ノウハウをシェアしたりチーム内のこじれをサポートする体制を敷きました。

 

チーム内での自主経営、全体性の確保、存在目的の追求。ティール組織の形を取ったところ、事態は一変。組織のメンバーは1年間で1万人を超え、オランダ国内において福祉医療領域を超えたあらゆる分野の組織の中で、従業員満足度NO.1となったのです。

ティールはゴールでも正解でもない

最後に、嘉村さんからティール組織を取り入れる際に念頭においておきたいポイントについてお話がありました。

 

嘉村さん「ティール組織は、10社あったら10通り、組織形態やプロセスがあるというのが大切なポイントです。一つの事例だけで、これがティールだと思わないでほしいんですね。自分たちが何者なのか、また自分たちにとってどんな組織が健康的なのか、それぞれが考えていくのがティール組織なんです」

 

ティールは必ず目指さないといけないゴールではなく、「ティールにヒントをもらいながら今の組織を健全にしていく」という考え方が大切なのだそう。

 

嘉村さん「『ティールを目指そう』というのは、経営者のエゴになってしまう可能性もあります。みんなで話し合いながら、それぞれに合った組織を目指してほしいですね。」

まずは塩尻から。ティール組織を実践するには?

嘉村さんからの熱のこもったお話を受けて、参加者たちによる意見交換が行われました。議題は、「これからの塩尻で何ができるか」。

 

千葉さん「ティール組織は塩尻のような地域コミュニティこそ取り入れやすいのではないでしょうか。みんなが『塩尻をより良くしたい』という思いで、一人ひとりが自由にやりたいことをやる。まずは塩尻から、やってみたいですね。」

 

山田さん「そうですね、さっきのお話で、心理的に安心・安全というのがすごくいいなと思って。『仕事』と構えるとなかなか難しいことも、『副業』とか『コミュニティ』のような繋がりであれば上下関係もなく、やりやすいのではないかなと思いました」

 

ペインをトップが抱えない。行政がティールを取り入れるには

一方で、嘉村さんからは現状の行政がティールを取り入れる際の難しさについて言及がありました。

嘉村さん「行政は、一度始めたことを最後まで確実にやり遂げる必要があったり、一人でも不利益をこうむる人がいないよう配慮して政策を打ち出したりする必要がある。その特性ゆえに、指示命令系統が明確なアンバーになりがちです」。

 

これを受け、参加者からは、失敗できないという仕組みがアンバーな組織を生みやすいのか?と質問がありました。嘉村さんは、アンバーな組織を抜け出すためには、「まずトップが失敗のリスクやペイン(痛み)を抱えるのをやめること」が重要だと話します。

 

嘉村さん「従来の組織形態では、何かあったときのリスクはトップが負い、ペインを抱えながら指示・命令することになりますよね。でも、もうこの考え方が古いと思っていて。

トップが弱みを見せてくれた方が、実はメンバーも嬉しいんですよ。それだけ信頼関係があるということですから。リスクやペインを共有し、一緒に話し合うことで、新しいチャレンジがしやすくなると考えています」

 

とはいえ、すぐに変えようとしても難しい。嘉村さんは、全部を変革しようとするのではなく、まずは少しずつ、ティールを取り入れてみることが重要だと話します。

嘉村さん「僕はよく『風船の空気を抜いて、新しい風船を膨らます』イメージで考えてもらえれば、と言っているんです。いきなりティール組織を目指すのではなく、改善の必要があれば一個ずつ変えてみる。失敗してもいい。みんなでどういう状態が一番心地良いか探っていく、その旅路のすえにティールがあると思っています。」

 

私たちはつい、「今の組織を丸ごと変えなければならないのではないか」と考えてしまいがちです。でも、嘉村さんの言葉を受けて、焦る必要はなく、ゆっくり自分たちの心地良いペースで良いのだとそっと背中を押してもらったような気がしました。

問うべきは、コロナ禍で何を学ぶか

イベントはいよいよ終盤に近づき、ブレイクアウトルームに分かれてそれぞれの感想や気づきを共有。

 

参加者からは、今回のコロナ禍において浮き彫りになった従来型の組織の課題点と、これからの組織のあり方について質問がありました。嘉村さんは、「今、世間の組織論は二極化している」と指摘します。

 

嘉村さん「一つは、先の読めない時期だからこそ、ビジョンを示してくれる強いリーダーが必要という声。もう一つは、現場で試行錯誤して新しいスタイルを確立していく方がいいという意見です。どちらが良いというわけではありませんが、時代の流れとして『やっぱり強いリーダーだよね』となってしまうのはもったいないと思いますね」

 

嘉村さんが海外のティールを実践している組織にヒアリングをしたところ、こうした状況下でも即座に臨時チームが立ち上がり、素早く現場で対応しているとのこと。

 

嘉村さん「ティール組織に変えることで今あるルールやプロセスが全てなくなると思われがちですが、そういうわけではありません。ただ、今回のコロナ禍によって、本来不要だったプロセスを見直すきっかけになったのはポジティブな変化ですね。問うべきなのは、この時代に何を学ぶか、変化をどうチャンスに変えるかだと思います」

 

人が人らしく生き、関わる延長に豊かな組織が生まれる

他には、「心地良いと感じる組織形態は、個人差があるのか?」という質問もありました。これに対しては、「たとえば、標準化が好きな人であればアンバー、分析が好きな人はオレンジ、というように、個人によって適性はあると思いますね。それは決してどちらが良い、悪いということではない。ただ、ティールは何かを押し付けることなく、いろいろな人を受け入れ共存する組織形態なので、居心地が悪くなるということはないと思っています」と回答が。

 

この話を踏まえて「自分がどの組織が合うのか考えるきっかけになった」「組織の規模ややり方、個人によって最適解が違うと分かった」といった参加者の声がありました。

 

嘉村さん「ラルー氏が提唱する原点は『人が人らしく生きて、関わる』こと。誠実に人と人が関わり合う延長に、豊かな組織は生まれていくと信じています」

最後に運営の山田さんから、今後の塩尻未来会議の展望や「MEGURUプロジェクト」について説明があり、参加者全員でオンライン記念撮影を実施。初のオンライン開催となった塩尻未来会議は、大盛況のうちに終了となりました。

 

ブレイクアウトルームでの参加者交流など、オンラインならではの活発な意見交換が行われた今回のイベント。嘉村さんがおっしゃっていた、「ティール組織の原点は、人が人らしく生き、関わること」という言葉が印象的でした。ティール組織の仕組みをそのまま自分の組織に当てはめようとするのではなく、それぞれの組織体や個人によって心地良い状態を探っていくことが第一歩なのだと感じました。

(Text:安心院 彩)

 

今後の「MEGURUプロジェクト」のご案内は次のリンクをご参照ください。
副業人材募集サイト(日本仕事百貨)
https://shigoto100.com/2020/10/meguru.html?fbclid=IwAR3uwnBC-81LUojcR_VLF_Bybw3PF5Rvpfx8l0nFlTi6FxnNsz3ZsPyhYwY

塩尻市シティプロモーション活動協議会(Peatix)

https://shiojiricp.peatix.com/

 

塩尻未来会議オンライン(Facebookイベントページ)

https://www.facebook.com/shiojiri.mirai.kaigi